苦手だけど、好きにならずにいられない!

最近の寺島先輩は、顎髭を薄っすら伸ばしてる。本人はカッコいいつもりかもだけど、営業っぽくない。というか、ちょっと怖いヒトになってんだよね。


「はい。まだ本刷りではないんですけど。少しでもお役に立てればと思いまして」

私はペットボトルのミルクコーヒーを飲み干した。
有名なコーヒーショップの名前を冠しているのに、呆れるほど不味い。


「はあ、ありがたいことですな。大出世でよござんしたねー」

「そんなんじゃないですよ。私だって信じられないんです。専門的な知識なんかゼロですし。きっとデレク社長の気まぐれだと思います」

「おー、ご謙遜を。大抜擢じゃないの、やるねえ、入社三ヶ月にして」


普段は割と気のいい寺島先輩がこれほどイヤミっぽいのには理由がある。

昨夜、寺島先輩は小さなライブハウスでロックバンドの前座に出演、自信満々に新作コントをやったのだ。

だが、久しぶりのチャンスに力み過ぎたのか滑りまくり、挙句の果てに
『もう引っ込んでいいよ!』と観客にヤジられてしまった。


そう。paraisoセールスマネージャーは仮の姿。
寺島新太30歳は、売れない・食えない、高学歴ピン芸人なのだ。




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