【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
「……そういう顔するってことは、
まったく意識してないわけじゃねえんだな」
「っ、」
ちがう、と。
咄嗟に言いかけたけれど、ここは電車の中。大きな声を出せなくて息を詰めるわたしに、艶やかにくすりと笑う綺世。……いつだってそうだ。
わたしが綺世のことを意識してるとわかる反応をするたびに、綺世は自信を持って上手(うわて)で接してくる。
おとなしくしていたかと思えば強引になる綺世のそのオンオフに、付き合っていた時何度振り回されて心を乱されたことか。
「まあいい。
……ふたりきりの時に、ゆっくり口説く」
降りるぞ、と手を引かれて着いた最寄り駅。
閑散としたそこは、わたしの地元。大きな街と街の間にある田舎だから、ここで降りる人自体はとても少ないけれど。
甘く囁かれた言葉に、放心状態のわたし。
口説くって、なに。……それじゃあまるで、わたしのことを好きみたいな言い方だ。
「……、ねえ綺世っ」
「……ん?」
だめだ、羞恥で顔に熱が集まる。
涙まで薄く張って、どうしようもないぐらい意識してるってわかる顔をしてる。……でも、いま聞かなかったらきっと、後悔する。
「綺世は……
音ちゃんのこと、好きじゃないの?」
わたしを忘れるために、作った彼女。
そこに恋愛感情は、本当に存在しないの?
「……馬鹿か」
呆れたようにこぼされた言葉。
貶されているのに嫌な気持ちにならないのは、わたしが綺世のことを好きだからで。視界に入ったピンクゴールドの指輪に、じわりと涙が浮かぶ。