【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-



──ようやく気づいた。

なんとも思ってなかったわけじゃない。心の中では何度も傷ついてたのに、そうやって平気に振る舞うことが、女のプライドで。元カノとしての、プライドだったこと。



「そうやって振る舞い続けて今年の夏。

……ひのに、彼氏がいたことを知ったんだよ」



「………」



「噛み合ってほしい歯車が別のパーツ同士にうまく嵌ったせいで、

俺らはお互いに勘違いしたまんまだったってこと」



「……、っ、」



「綺世から聞いてるかもしんねえけど。

……あいつずっとひののこと好きだよ」



あいつが、本気で惚れた女を簡単に忘れるような男には見えないだろ。

俺のまわりには何人かそうやって大事な人間を思ってるヤツがいるけど。……綺世ほど好きな女を大切にしてるヤツは見たことない。




「綺世の彼女の話題はさておき。

その様子だと、ひのもあいつを忘れたくて彼氏つくった?」



「……誰かさんたちが、

聞きたくもない話をさんざん聞かせてくるから」



ひとりで耐えるのはつらかった、と。

愚痴るようにこぼしたひのの瞳から、音もなく涙がはらはらと落ちる。ようやく、あいつの愛情の深さに、気づいたから。



驚きだとかうれしさだとか、言いようのない感情に苛まれてるひのの肩から顔を上げて。

抱き寄せて、ぽんぽんと頭を撫でてやる。



綺世に抱きしめたことがバレたらそれこそマジで俺殺されんじゃねえかなって思うけど。

お前の気持ちはちゃんと繋いでやるから安心しろよ。



「綺世の気持ちで胸がいっぱいのひのちゃんに、

俺がひとつ教えてあげようか」



誰しも泣き顔はかわいくないって言うけど。

俺はひのの泣き顔、嫌いじゃねえよ。……あいつを想ってるその表情は、ただ純粋に綺麗だ。



< 141 / 245 >

この作品をシェア

pagetop