みはら山図書館へようこそ


みはら山図書館はいつも午前十時に始まり、

名無しさんは土日に開館直後にやってきます。


「どうしてナナシさんなのですか?」


新人司書の佐藤くんが訊ねました。

佐藤くんは新人といっても

二十八歳の背の高い眼鏡の男性です。

司書の証明であるオレンジ色のエプロンがよく似合います。


「彼女はずっとここを利用してくれている学生さんなの。

でも一度も図書カードを作ったことがないから、

誰も名前を知らないのよ。」


「だから名無しさん。」


実際に「名無しさん」という呼び名は

みはら山図書館では有名でした。

司書だけではなく、

司書同士の会話を聞いていた常連さん、

そのまた常連さん、

みんな知っていました。

誰も彼女をそう呼ぶことに抵抗はありませんでした。


佐藤くんが名無しさんに近づきました。

人なつっこい彼なら、

名無しさんとも仲良くなれるんだろうなあ

と手元の本を整理しながらぼんやり考えました。


< 2 / 2 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

公開作品はありません

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop