街が赤く染まる頃。ー雨 後 晴ー



「おーい、そろそろ出発するから並べよ~」


担任のそんな声が聞こえて、俺らは笑うことをやめた。
自然と、全員が真顔に戻った。


「じゃあ、俺たち行くね。」


そうやって智樹が笑顔で言うから、また笑顔に戻るんだけど。


「おう、気を付けてな」


「ありがとね。とっても楽しかったよ。」


なんて、それぞれ一言ずつお礼を言って、俺らはクラスのところに整列し、別れの会なものが始まり

終わりには全員で民宿のみんなにお礼を言う。
じゃっかん小学生みたいだったけど、それでも俺や智樹でさえ、ちゃんとお礼を言った。


民宿よりホテルの方がいい

なんて言ってたやつらもかなりいたけど、それでもやっぱり民宿でよかった気がする。


一晩だけの家族も解散。

沖縄もこれで最後だ。


「大翔」


全てが終わり、バスに乗り込む俺を、父さんが止めた。


「なに?」


「後悔しない生き方をしろよ。」


「……わかったよ。」


「元気でな」


「おう」


たったそれだけ、言葉を交わして俺はバスに乗り込んだ。
窓の外では相変わらず俺らに手を振る大人たち。

それに応えるように振り返す子供たち。


高校生になり、少し大人びた同級生が
なんだか一段とガキに見えた、そんな瞬間で


「なんか大翔、またちょっとかっこよくなったよ。」


「だからちょっとかよ!」


心優にそんなことを言われる俺も、久しぶりに童心に返った気がした。


「……って、心優がとなり?」


「だって智樹があっちがいいっていうから」


……なるほど。あいつ青木の近くにいたいわけな。
納得。

ま、心優なら文句言わずに窓側譲ってくれるからいいけど。



「楽しかったね、修学旅行。」


「え、あぁ
そうだな。思ってたより遥かに楽しかった」


いろんなことを学んだ気がする。

そしてやっぱり民宿はいいもんだった。


「出発するぞ~」


担任のその声に、俺は窓を開けた。

きっと、もう二度と会うことはない。
だけどみんな叫んでたから、俺も叫んでみた。


「またなー!!」


精いっぱいの笑顔と、精いっぱいの声で別れを告げる。
みんなの声にかき消されないように、必死で。


「元気でな~!」


そんな父さんの声も聞いて、バスは出発した。



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