夢物語【完】
「・・・」
《・・・》
「・・・」
《涼》
「はい」
《一緒にいるの誰?》

バレた。
完全にバレた。

あたしは焦ってる。
非常に焦ってる。
バレて、相手もわかってるはずやのに聞き出すあたりヤバイ。
文字では表せん声色。

《一緒にいるの、誰なの?》

完全に怒ってる。
それを直接感じてるのはあたしだけやのに、他の3人があたしの表情でそれを察知して、顔が強張ってる。

バレた元凶は半泣き状態。
それでも足は止めずに指差した角を左に曲がる。

『あそこに見えるマンション』

空気が濁りすぎてるせいで、小声ではなく口パクで教えてくれる。

あと20メールで着く。
だから、それまでどうかもって。

《涼》
「い、今どこにいんの?」

どうにかして今の空気を変えたい。
後で怒られたとしても、今だけはどうしても。

《どこって、家だけど》

それにしても下手くそな繋ぎやと思う。
後ろでは頭抱えてるし、返ってくる返事は苛立ってる。
無視したり、拒否したりせんってわかってるから出来ることなんやけど、もうちょっとええ方法があったはずやのに情けない。

「家に一人?」

マンションの前に立ち、気付かれんように息をのむ。

《そうだけど》

自動ドアの開く音やエレベーターの音が入らんように、自分が喋る時以外はマイクの部分を塞ぐ。
多少の怪しさはあっても今の状況ではただの不信感にしかならん。

「初詣はまだやんね?」

そして部屋の前に立つ。
後ろの3人は何の気無しに立ってるけど、あたしの心臓はバクバクしてる。

自分で考えたサプライズ。
浮かんでからは強い味方が付いてくれた。
なんやかんやで“面白そうやから”っていうのが一番の理由らしいけど、こんな時は人数ある方が楽しい。

《まだ。てか、ほんとどこにいんの?》
「あ、あの、その…」

――ピーンポーン

「?!」

痺れを切らした声に慌てた瞬間のインターホン。
受話器越しに同時に響いた。

《誰だよ》

どうやら細かいことは気にせんらしく、タイミング悪く客が来たと思ってるらしい。

押したのはあたしじゃない。
面白いことが大好きなヤツが押した。

――ピーンポーン

《こんな時間に誰だよ》

二回目の呼び出し。
この部屋の主はやっぱり細かいことは気にせんらしく、なかなか気付かん。

本人が出てきてくれんとサプライズにはならんから、出てきてほしいんやけど、イライラしてるから居留守を使う様子。
それでは困る。

――ピーンポーン、ピンポンピンポン、ピーンポーン

“短気は損気”
そんな言葉があった気がするけど、ヤツには存在せんらしい。

元旦といえども季節は冬真っ只中。
歩いてきたから体は冷え切ってるし、手は冷たくて震える。
せっかくのサプライズも寒さには勝てんくてインターホンを押して催促する。
あたしにとったらサプライズ進行の妨害で迷惑にしかならんねんけども。

電話の向こうでは《うるせぇ…》と呟いてた。
それでようやく気付いたらしく、足早に玄関に向かう音がする。

目の前のドアの鍵がガチャンと落とされて、ゆっくり開くーーー。
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