あなたに呪いを差し上げましょう(短編)
遠くでざわめきが一層大きくなった。宴が盛り上がっているらしい。でも正直に言うと、もう早く帰って早く寝たかった。


ドレスは重たいし、変なひとに絡まれているし、夜も更けてきたし。


子爵にご挨拶をするという、今日の用事は済んでいる。


どうせわたくしがいてもいなくても変わらないのだから、父には後で事情説明と謝罪の手紙を送ることにして、さっさと帰ってしまってもいいはずだ。


挨拶回りで忙しいだろうから、父に許可を得るのを待っていたらいつまでも帰れない。


「ルークさま。恐れながら、わたくしはこれで失礼いたします」

「アンジー」


ドレスをつまんで淑女の礼をして、隣を通り抜けようとしたわたくしの手を、ルークさまがするりと取った。どこまでも手慣れた手つきだった。


「……何を」

「待って、ほしいのです」


待ってくれと言いかけて、お待ちくださいとか待ってくださいとか言わなければいけなかったことを思い出して無理矢理つけ足したような、拙い敬語。


アンジー、と静かに呼ばれてどきりとする。


遠くからでもうつくしいルークさまは、近くで見てもうつくしかった。
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