部長が彼になる5秒前

……へ? 今なんと仰いました?

「ぶ、ぶ、部長の家ですかっ…!?」
動揺が隠せず、慌てて訊き返す。

「そうだが? あと、さっきからその"部長"と呼ぶのが気に入らない。」

そうだった。私はいつも、普段の癖がつい抜けず、彼の名前を呼ぶことが出来ない。お陰で部長…じゃない、要さんは訂正することに慣れてきてしまっている。

「いや、でも要さんの家にお邪魔するのは、さすがに緊張するんですけど……。」

おずおずと彼の名前を呼びつつ応戦してみる。

「何?予習ならもうできてるはずだけど?」

くだけきった口調で、彼はすかさず返答した。

「……予習?」

何のことかさっぱり分からない私は、言われたままの言葉を繰り返す。
予習とは一体何を指しているのか。

「出張という名の"お泊まりデート"なら、もうとっくにしてるはずだが?」

疑問が浮かぶ私に、部長の口調に戻った彼は、そう言ってからかう。
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