along
階段を並べ終えた直は、続けて大型の本でスロープを作っていた。

「倒れた一個がここを滑ってくれるといいんだけど」

ちょっとそっと本を傾けても、駒は全然滑ってくれない。

「もっとスロープの角度を急にしたら?」

「かなり角度をきつくしないと難しいな」

本と駒の材質の問題で、滑らせるのは難しそうだった。

「何か転がる物を置いて、倒れた駒がそれを動かすようにしたらどうかな。スロープを転がって、次の駒に繋がってくれたら……」

「ちょっとトイレットペーパーの芯取ってくる!」

実験を繰り返してみた結果、スロープの角度をつけると芯が勝手に転がってしまうし、逆に安定させると、軽い芯とはいえ駒で動かすのはなかなか大変だった。

「芯を押す駒は玉にしよう。少しでも重量ある駒の方がいいから。それで芯をスロープにギリギリ止まっている状態にしておかないと」

直は色々試行錯誤して、スロープの角度を調整し、結局細く切った布ガムテープを二重に張り付けてストッパーとした。
駒も少し落下させることで、芯に与える衝撃を大きくする。

その間私は割り箸で橋を作って盤と盤を渡してみたり、開いた本をかぶせてトンネルを作ってみたり、工夫を重ねていた。

「下るのは本でもいいけど、上るのは本だと厚すぎてダメだね」

「あ、ちょうどいいのがある!」

直は何十枚か真っ白な色紙を持ってきた。

「これなら少し厚みがあるし、高さ調節もできるよ」

「本当だ。ありがとう」

何度か倒しながらも、一応最後までドミノは完成した。

「真織さん、スタートしていいよ」

「私が押していいの?」

「真織さんが始めたことだから」

「なんか、緊張するね」

こうしている間にもどこか倒れそうなので、余計な押し問答はせず、遠慮なく押させてもらうことにした。

「じゃあ、行きまーす!」

将棋盤の上に並んだプラスチック製の小さな“歩”をチョンッと押すと、トトトトトと素早く倒れ、割り箸の橋を渡ってもうひとつの将棋盤の上に向かう。
やはりとても澄んだ音をさせながら立派な駒たちも順に倒れていき、本の階段を下って、落下した王将がギリギリで止まっていたトイレットペーパーの芯を押した。
グランと揺れて芯は見事にスロープを転がる。

「あ! やった!」

無事に次の駒が倒れ、本のトンネルをくぐってから、色紙で作ったゆるやかな階段を上る。
そして上り切った最後の一個が崖から落ちて、カランと金属のボウルに入った。

「わああああ! やったー!」

「おおー、できた」

時間にすると多分十秒程度だったと思う。
並べたりギミックを作ったりした時間に比べてなんてあっけない。
それでも最後まで思った通りに倒れてくれて、ものすごい充実感があった。
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