along

「おじちゃん、段位って数字が大きい方が強いんだっけ?」

「そうだよ」

「あは! じゃあ私の彼氏の方が強い! 七段だって!」

おじちゃんは箸でつまんでいたコロッケをボタッと落とした。

「うわ、おじちゃん床にソースついたよ! 拭いて!」

直に負けたのが余程ショックだったのか一向に動く気配のないおじちゃんの代わりに、私と頼子ちゃんがウェットティッシュで拭き取った。
コロッケは一口しか食べていなかったけど当然廃棄。

「━━━━━鈴本、それ本気で言ってる?」

「そう言ってるよ。ほら」

携帯に表示された『七段』という文字を見て、おじちゃんは立ち上がった。

「それ本当にアマチュア? プロだろ!?」

「へ? そうなの?」

プロ? プロって将棋指すことが仕事ってこと?

「アマチュアでは通常六段までしか取れないんだよ。七段なんて特例! 名前は? 彼氏の名前! プロなら絶対知ってる!」

「……有坂行直」

「はあああああ~、本気か~」

すっかり食欲をなくしたらしく、おじちゃんは箸を放り出した。
が、残したら奥様が怖いと思い直して、残りを無理矢理口に詰め込む。

「おじちゃん、直のこと知ってるの?」

「知ってるも何も! 有坂七段って言えばいずれ名人も取るって言われてる天才だよ」

「へー」

あ、人間驚き過ぎると頭真っ白になるんだ。
名人……へー、名人。直が?

「……彼氏なのに知らないって、ある意味名人よりすごいな、鈴本」

“名人”がすごいってことはわかる。
だけど“湯沸かし名人”とか“カビ取り名人”なんて方が馴染み深くて、どの程度すごいのか全然理解できなかった。
私が出会ったことのある“名人”なんて、祖母の友人のタツ子さん(漬物名人)だけだから。

「でもおじちゃんだって四段なんでしょう? 三つしか違わないじゃない」

「俺もまあまあ強いと思ってるけど、プロの段位とアマチュアの段位は全っ然違うから。 俺の段位なんてプロにしたら6級になれるかどうか。俺が6級だと仮定して、級は数字が小さい方が上になるから5級、4級、3級、2級、1級、初段、二段、三段、四段、五段、六段、七段。鈴本の彼氏は今ここ」

指折り数えるおじちゃんの左手は、全部折って、もう一度開いても数え終わらなかった。
十二違う……。
おじちゃんでもまあまあ強いと自負してるのに、直ってどれだけ強いのだろう。
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