今宵の月のように
1・満月の夜は何が起こるかわからない
ドラマのような華やかな都会生活を夢見ていた。

おしゃれなカフェでモーニングを食べて、仲のいい女友達と一緒に日替わりランチを食べながらおしゃべりして、毎週金曜日の夜は女子会と称してこじゃれたレストランや大衆居酒屋でタラレバをつまみに語りあいながら朝まで飲み明かす。

休みの日はネイルにエステに美容室、料理教室に通って女子力をみがく。

高学歴・高身長・高収入のエリートなイケメンをゲットするために合コンやお見合いパーティーに参加して、イケメンとつきあって幸せな結婚をする…はずだった。

なのに、現実と言うものは甘くない。

毎朝の上司のくだらないスピーチを聞くために優雅にモーニングを食べている時間はない。

職場にいるのは男――しかも、おっさんか既婚者である――ばかりで、女と言えば高校生の息子が1人いると言うベテラン事務員だけである。

毎日残業ばかりで、定時は夜の6時のはずなのに9時――ひどい時は終電間際――に帰ると言う生活である。

休みの日は女子力をみがくことよりも合コンに参加することよりも寝ることを優先したい。

理想とは程遠い生活を送っていた日常は、満月の夜に変わった。
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