クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~




「夕夏」

突然呼ばれて、ビクッと肩が跳ねた。


まさか、葛城さんから話しかけてくるなんて思わなかったから。


(なんだろう……しらけてもうここでお別れしよう……とか)


それも仕方ない。だって、私はわがままで勝手なことばかり彼に要求してしまった。呆れてつまらないやつと思われたって……自業自得だ。


そんなふうに覚悟を決めて躊躇いながらも振り返った私だけど。葛城さんは予想外の表情をしてた。


「このT-REXの人形、おまえならどちらを選ぶ?」

「え……T……何ですか?」

「T-REX。ティラノサウルス·レックスのことだ。あくまでも略称だが」

「ティラノサウルス……」


そういえば、ティラノサウルスの小さなフィギュアが彼の部屋にはあった。幼い頃の唯一の思い出……。お父様と一緒に映画を観た。いくら無関係だと突き放した態度でも、それを手放せなかったのなら。きっと大切なものなんだ。


(そうだ……彼は実家でお父様と会ったけれど。その後はどうなったんだろう?)


私が意識して三辺さんや曽おばあ様まで巻き込んで、葛城さんを家族と会わせた。嫌な思いをしてしまったか……それが急に気になり出した。


けれど、気まずいままでは訊くのも憚られて。私は距離をとって彼の隣に歩み寄る。


すると、すごく精巧に造られた動物のフィギュアがあり、別のシリーズで恐竜のフィギュアも展示されてた。


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