ハル
来週からテスト1週間前、部活も休みになる。
僕の専門は平泳ぎに決まった。
今日がテスト前最後の練習日。
1年は他に9人入り、うち1人はマネージャー。
舞子だった。
中学は吹奏楽だったが、それまでは
スイミングスクールに通っていたそうだ。
僕と同じ日に見学に来て入部を決めたらしい。
入れ違いだったようだ。
女子4人、男子5人、マネージャー1人。
9対1では世話をしきれないのではないかと思ってしまった。
「京佑!」
声をかけたのは洸平だった。
振り向いた僕にホースで水をかける。
いい加減に洸平のイタズラには気付きたいが、
毎回振り向いてしまうのも洸平の愛嬌のある
呼び方のせいだった。
洸平の専門は僕と同じ平泳ぎ。
飛び抜けてどちらが速いという訳ではない。
彼も、中学時代は水泳部であり、僕と同じ水泳人生を歩んでいた。
ホースで思う存分に水をかけられた僕は、震えながらもシャワーに向かい、もっと水にかかりにいった。
誰もが一度は経験したであろう、“地獄のシャワー” だ。
GW明けから3日。
平均気温より5℃も低い、そんな今日という日にタイム測定を行うそうだ。
太陽は早く泳がせようとさせるかのごとく照りつける。
まずは専門が平泳ぎでかぶった僕らがタイムを測られた。
100m平泳ぎ、僕と洸平がスタート台にあがりライバルになる。
「よーい、ピッ!」
舞子の笛が鳴った。
僕はひたすら泳いだ。
ライバルがすぐ横を泳いでいる。
どのスポーツもそうなのかもしれないが、追い抜かれる瞬間は気配を感じる。
波、飛沫、敵の圧力…水泳は特にそうなのではないかと、陸では神経の鈍い僕は思った。
そんなことを考えていると75mを折り返していた。
まだ洸平には追い抜かれていない。
残り5m、洸平の気配を感じながら僕はかすかな気力を振り絞って壁にタッチした。
「1分19秒36!」
1分19秒36。これが僕の高校最初の記録だった。
顔を上げたものの、しっかりと息を吸うことができない。
「1分21秒52!」
舞子の声が響く。
洸平に勝った。
「おつかれ様〜!!」
舞子が僕らに声をかけた。
洸平もちゃんと息を切らしている。
「洸ちゃん、惜しかったね。」
「もうすぐそこに京佑見えてたんだけど、追いつけなかった〜〜!やっぱ京佑、速かった〜!」
洸平は目を輝かせながら言う。
そんな洸平を見ながら、僕はどこか負けた感覚を覚えていた。
なぜか、負けた洸平が羨ましい。
息を切らしたままプールサイドに上がった僕は、100m自由形のタイムを計った。
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