氷の華
「私が…ですか?」


柿沢店長は言葉を発さず、私に向かってゆっくりと頷いて見せた。


乃亜さんの様子を伺おうと瞳だけ動かすと、不貞腐れたように明後日の方を向いて座っていた。


七番テーブルへ歩いていく時に、背中へ刺さるように感じた視線は、乃亜さんのものに違いない。


「いらっしゃいませ。お隣、失礼します。」


「おぉ〜来た来た。今日は蘭ちゃんに会いたくて来たんだよ。」


聞くつもりもなかったけれど、指名替えの理由を聞かれる前にという牽制にも、私は笑みを見せた。


完全に[ミルキィ]の蘭を演じきっている。


そう思っていると、社長室へと入っていく氷藤社長の背中が、一瞬だけ目の端に映った。
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