君にまっすぐ
終業5分前、もうお客様は現れないかなと思っていたところに孝俊がやってきた。
この時間に現れるのは珍しい。

「お待たせいたしました。お車の用意ができましたので、どうぞ。」

「あぁ、ありがとう。」

そう言いながらも孝俊は車に乗り込もうとはせずに黙り込んだままだ。

「あの、どうかされましたか?」

「いや、あの、森山田さん。もう仕事終わりだよね?」

「はい。もう6時をまわりましたので、仕事はこれで最後になりますが。」

「これから少し車を走らせようかと思っているのだけど、一緒にどうかな?」

「え?オルディさんにですか?」

あかりがちょっと食い気味に来た。

「そう、オルディさんに。たまに時間が空いた時はドライブに行くんだよ。一人じゃ味気ないし、一緒にどうかな?」

「え、でも…」

「オルディ、好きなんでしょ?こんな機会めったにないと思うけど、逃してもいいの?さすがに俺も1度断られたら、もう誘わないし。」

「う…。あぅ…。でも…。」

あかりの頭の中では理性と欲求が戦っているようだ。
そんな苦悩する表情はとてもかわいらしいと孝俊は思いながら楽しんだ。

「あの、本当に武堂さんがよろしいのであれば、ぜひ乗せていただきたいです。お願いします。」

誘ったのは孝俊だというのに、深々とお辞儀をして丁寧にお願いをしてくるあかりに心がくすぐられる。

「もちろん。じゃあ、俺は入口を出たところで待っているから、準備が出来たら出てきてよ。」

「わかりました。急いで向かいます。」

待ってるよ、と少し上機嫌になった孝俊は車に乗り込み発車させた。
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