次期社長はウブな秘書を独占したくてたまらない
「それは却下だな。元々、食事をしていくつもりだったし、文香に色々聞きたい事もある」


聞きたいことって何だろう?


運転する駿介に顔を向け小さく首を傾げて視線で問いかけてみるけれど、駿介はまっすぐ前を向いたまま。絶対、視線には気付いているはずなのに。

これ以上、今話すつもりはないって事だろう。レストランに着いて落ち着いた状態で話したいんだろうけど、それならそれって言ってくれたらいいのに。それともそんな気を使うつもりもないくらい機嫌が悪いって事なんだろうか?

自分に駿介を不機嫌にさせた覚えがないのもあって、私もふいっと外に視線を向けたまま無言になる。

そのまま、レストランに着くまで、車内はカーステレオから流れるスタンダードジャズ以外の音が響くことはなかった。


⌘ ⌘ ⌘


不機嫌な空気をまとったままの車が止まったのは私も良く知っているレストラン。

「ここ!」

不意打ちに現れた懐かしい佇まいのお店に思わず声を上げてしまった。
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