冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「こんな小さな手だ。決して無理はするな。まずは自分の身が第一だ。
 何か異変があればすぐに私かダウリスに知らせること。ダウリスにも警戒を強めるように言っておく」
「はい」

 自分が守ると宣ったくせに、近くで見る漆黒の瞳にひどく安心感を覚える。
 きゅっと強さを込められた手が、熱く火照った。
 熱を持つのが手だけではなくなると、全身が心臓になったような強い脈を打った。

「あ、あ、ああああのっ」
「うん?」
「もももも申し訳ございませんっ、わたくしっ、なんて不躾なことを……!」

 国王となるお方に気安く触れるなど言語道断。
 慌てて離れようとするも、しっかりと握られた手はちょっと身を引いただけでは放してもらえなかった。
 たぎるような熱が頭の先までを沸騰させる。
 きょとんと瞬くディオンは、離れようと腕を引くフィリーナの手を捕まえたままだ。

「でぃ、ディオン様……っ」
「どうしたんだ。顔が赤いぞ?」
「そ、そそそそそれは……っ」

 口の端でにやりとほくそ笑んだディオンは、フィリーナの手を離すどころか、ぐいと強く引いた。
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