冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「今日は珍しいことをしていたな」

 吸い込まれそうな碧い瞳。
 二度目になる声掛けに、息が詰まるほど胸の鼓動がやかましい音を立てて弾ける。

「何か動揺するようなことでもあったのか?」

 首を傾げる麗しの王子様。
 耳の奥で鳴る脈の音がうるさくて、まろやかな声は少しい遠めに聴こえた。

「何も怒っているわけじゃあないんだ」

 整った眉を下げて口の端で笑うグレイス王子に、フィリーナは固めていた身体をなんとか解し、やっとの思いで口を開いた。

「あっ、あのっ、わた、わたくしは……っ」
「少しだけおしゃべりに付き合ってもらえるか」
「は、はいっ、御意にっ!」

 目が回りそうな状況に、騎士のような堅苦しい物言いで返事をしてしまった。

「僕のような中途半端な地位の人間にでも緊張してくれるとは」

 く、と堪えきれない笑いを零して、グレイス王子はしっかりとフィリーナを見つめた。
 碧い瞳に見据えられ、ますます動悸が激しくなる。
< 25 / 365 >

この作品をシェア

pagetop