冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 食事のときも、話題に出すのは近隣諸国の内情で、ディオン王太子は休む間もなく世の情勢について頭を巡らせている。
 そして、ディオンが今一番気がかりなのが、隣国ヴィエンツェのことだ。
 そんな彼の思いを知ってか知らずか、グレイスは相変わらずだと眉を下げてゆったりと口を開く。

「兄さん、せっかくの機会なんだ。レティシアとの時間は大切に過ごしてくれよ」
「ああ、わかっている。そういうお前は、今日は何を?」
「そうだな。僕は馬でも走らせて、付近の巡視に行ってくるよ」

 騎士団長としてのお役目を担っているグレイスに、ディオンはもちろん信頼を置いている。
 まるで娯楽にでも行くような物言いをしたグレイスが、単なる遊びで乗馬をすると言っているわけではないことをわかっていた。
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