次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
「ただ一人、真実を知ったディルが孤独な玉座に座るというほろ苦いエンディングを迎えるはずだったんだけどね〜」
フレッドは死なかった、死ねなかった。どちらだろうか。
フレッドは苦笑しながら言った。
「今度はね、祖父の気持ちがよぉくわかった。魔がさしたとしか言えない。どうしてあの時、ナイードの怪しい誘いに乗ってしまったのか」

死を覚悟したフレッドに、ナイードは甘くささやいた。

『なにも死ぬことはありません。本当に失踪してしまえばいいじゃないですか。私はあなたの本当の父親を知っています。彼は世界中を旅する画家だ。一緒について回ったら、きっと楽しい』

『さぁ、私とくれば自由になれる』

「実の父親に会ってみたかった。王子なんて堅苦しい身分を捨てて、世界を見たかった。それは嘘じゃない。……だけど結局のところ、僕は死ぬのが怖かったんだ。それで、このザマだ」
「ナイードの目的は?」
「最初はルワンナ王妃に雇われて、僕を始末しようとしていた。けど、僕の身辺を洗っているうちに秘密に勘づいた。正直なところね、薄々気がついている人間はいるのかもしれない。ただザワン公爵に逆らうのは得策じゃないと誰もが思うから、秘密は守られていた」
「そうか。でもナイードはルワンナ王妃やお父様と縁がある」
「うん、彼は幸運なことに秘密を高く買ってくれそうな人間の懐近くにいた。だが、あれこれ算段した結果、ザワン公爵本人と取引しようとした」
「お父様じゃなくて?」
「ライバルを追い落とすより、自分の命を守るための方が人は多く金を払うだろ?」
「たしかに、そうね」
「現在の雇い主であるルワンナ王妃はあまり賢い人間じゃない。適当にごまかしながら、ターゲットであるザワン公爵に近づく機会をうかがっていたんだろう」
「だから、あなたを生かしておいた?」
フレッドはうなずいた。
「そうだと思う。ザワン公爵にとって最も大事なことな、僕が王になることだから。死体じゃ取引にならない」


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