次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
「妙な欲を出さずに、ルワンナ王妃に従っといた方がよかったんじゃないか?」
フレッドの言葉を、ナイードは鼻で笑い飛ばした。
「ふん。妙な欲を出してきたのは、あの馬鹿王妃の方ですよ。約束の報酬を値切るなんてケチなことを言い出さなければ、二人の王子を始末して、その座を安泰にしてやったのに……」
「なるほど。僕とディルはある意味、あの王妃に命を救われたわけか」
フレッドは苦笑する。二人にとっても、王妃にとっても、皮肉な結果になったものだ。

「ずいぶんややこしいことを考えたものだと思っていたけど……仲間割れからの苦肉の策だったのね」
プリシラがつぶやくと、ナイードにすごい目で睨まれてしまった。
「小娘に指摘されなくても、わかってますよ。今回のことは私の人生で最大の失態だ。かくなるうえは……」
「三人で心中とか、そんなのは嫌よ」
「私は商人の生まれなんです。誇りだとか美しい引き際だとかね、そういう一銭にもならないものに興味はない。こうなったら、惜しいのは自分の命だけです。お前たちの命と引き換えにしても、私だけは助からなくては」
「だから、わざわざプリシラまでさらってきたわけか」
フレッドは納得したようだが、プリシラは理解が追いつかなかった。
「え?どういう意味?」
「ルワンナ王妃が捕まった。いま実質的に国を指揮してるのはディルと義父であるロベルト公爵だろう。二人にとって、一番価値ある人質は……」
フレッドの言葉をナイードが繋ぐ。
「あなたですよ。公爵が一人娘を溺愛しているのは有名だ。ディル殿下も後ろ盾である公爵の機嫌は損ねたくないでしょう」

「……あいつはプリシラの命と引き換えなら、玉座すら譲るんじゃないかなぁ」
フレッドはのんびりと言って、笑った。
「もうっ。フレッドはなんでそんなに呑気にしてられるのよ!私たち、人質にとられてるのよ」
< 131 / 143 >

この作品をシェア

pagetop