再会からそれは始まった。
特急で一時間半揺られ、俺たちが生まれ育った町に着く。

俺にとっては、良い思い出なんてひとつもない。
この町を出たくて出たくて仕方がなかった。

花は、嬉しそうに駅へ降り立ってバス停に向かって駆け出す。
こいつにとっては、素晴らしい思い出があちこちに残った温かい町なんだろう。

でも、今こうやって二人でこの駅に降り立ってみると、悪いところでもないか。
バス停の時間を見ながら聞く。

「おまえは、たまには実家に帰ったりしないのか?」

「なんか忙しいっていう理由でなかなかね。お盆も帰らなかったな。
正直、帰ってもすることないしね。昔のお友達とも会っても話が合わなくなってきちゃったし。」
と少し寂しそうな顔をする。

「ご両親は健在か?」

「うん。」

「じゃ、この後行こう。」

「なんで! いいよ、行かなくても。うちの両親、卒倒するって。 
彼氏なんか今まで連れてきたこともないのに。」
慌てたように、花は首をふる。

「挨拶しなくちゃ。アメリカ行くし。」
腕時計で時間を確認する。

「いいよ今日は。また改めてで。突然は無理だって。
うちもまた散らかっているし、この親にこの子アリなんて思われたら困るし!」
花は必死に阻止しようとする。

俺は、少し笑って言う。
「結婚の挨拶もついでに。」

花はムッとして俺を見上げる。
「あのねえ。そのついでっていうの今、カチンときた。」

「あと、40分も待たなきゃならんのか。こういうのも嫌いだったなー。この町。」
俺はウンザリして、タクシーが一台だけ止まっているタクシー乗り場に花の手をひいて行く。

タクシーに乗って高校へ向かう。
「結婚なんて、きのう新崎所長に言われて思いついたくせに。今日はうちには行かないよ。」
花はぷんっと怒って言う。

「一度に用が済んでいいじゃないか。」
「そうやって、また効率を考える。仕事人間はこれだからロマンがない。」
「わるかったな。」
「そだ、じゃ南くんの実家に先に行こう。」
花は、俺の家族に会いたいと目をキラキラさせて言う。

「うちは、もうここには誰もいないよ。上の三人の兄貴はそれぞれ結婚してそれぞれの場所にいるし、親父は再婚して新しい家族と暮らしているし。この十年、全員で顔を合わせることなんか無い。」
「みんなどこにいて何しているの?」
「親父は、千葉でまだ大学で教えてるよ。一番上は東京でITの技術職。次は仙台で新聞記者。三番目は、インテリアも輸入会社をやっていてストックホルム」
「うわー。バラエティに飛び過ぎ!」
「花は?兄弟は?」
「私は、野放し状態の一人っ子。共働きだったからね、早いうちから鍵っ子。
だから、ひとりぼっちの時は本読んで寂しさを紛らわせていたよ。
いいなあ、兄弟がたくさんいて。 」
俺は、そんな花の小さい頃を想像してみる。
「ご両親は、何してたの?」
「2人とも学校の先生だよ。父が国語。母は美術の先生。」
俺は、微笑む。やっぱり、会いたいな花のご両親に。

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