再会からそれは始まった。
ビールも手伝ってか、私と南くんはいろんな話をした。

「南くんもかなりの読書家だったよね。私、驚いたもん。図書委員一緒にやってて。」

「小さい時から親父の蔵書がたくさんあったからな。上3人の兄貴の本も読み漁ってたし。」

「通りで。南くんのお父さんは何をしてる人だったの?」

「あの町の国立大の教授だったんだよ。」

「へええ。なんの先生?」

「民俗学。」

「これは、また意外な。」

「だよな。」

あの怖いイメージの南くんがうそみたい。
高校生の時、こうやって彼と話してみたかったんだって思っていた。
男の子同士だとあいつは話してて面白いやつとか、頭の回転が早いから飽きないよなとかそう聞いていたのに、女の子とはちっとも話さないんだもの。

お腹いっぱいで、ほろ酔いの中、二人で川沿いをゆっくり歩く。

「ここからも、あのビル少し見えるんだな」

「うん。」

「もう少しで、全部の階に明かりがつく。」

「南くんの卒業した後のことも聞きたい。」

「え?」

「今日は高校の時の話に花が咲いたけど。どうして南くんがこんなすごい仕事をするようになったのかもっと知りたいなって。」

「別に大した事は何もしてない。俺はみんなに助けられてるんだ。本当は、お前みたいなプロフェッショナルな人が細かいところで動かしてる。俺は、ゼネラリストだからな。」

「でも、南くんにはみんながついて行きたくなるような何かがある。南くんの周りには、一流の人達が信頼して集まって来る。私はそう思うよ。」
花は、屈託なく笑う。この笑顔もずっと昔から変わらない。

「………………。」

「ここでいいよ。送ってくれてありがと。」

「ん。」

「ていうか、ホントに面倒だったら泊まってく?」

南くんは苦笑する。
「おまえはさあ。。。」

「あ、説教される。また。」

「当たり前だ。俺をなんだと思ってるの?」

「とりあえずはホモ疑惑とどんでん返しのドS社長の汚名は取れたかな。」

「あ、そう。」

「こうやってなんでも話せる友達になりたかったよ。高校の時。」

「友達ね。」

「じゃ、またね。今日は本当にどうもありがとう。」

「おい。こら。待て。」

振り向いて、彼の手が私の腕を掴み、見上げたその瞬間何かそっと柔らかく私の唇に触れた。
頭が真っ白になって、ああ、これって今キスされてるって事?て気がつくまでに随分と時間がかかったような気がする。

離れる瞬間の南くんの目は、今まで見たことのないような鋭い眼差しだった。
胸が高鳴る。
私の腕を離し、彼はフッと微笑む。
そして、何も言わないまま振り向いて行ってしまった。

私は、ただただ頭がついて行かず、ぼーっと立ち尽くすばかりだった。
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