再会からそれは始まった。
「今、近くにいるからそっちに寄って、この間お借りした傘をあのきれいな秘書さんに返しに行きたいんだけど。」

金沢くんにそう電話をすると、僕が預かりますと言ってくれる。

それを断って、直接秘書さんのところへ行ってお礼をしたいんだとお願いをし、今、41階のフロアへと上がっている。
来客用のカードをかざして中に入ると、スペースを贅沢に使った広いフロア。
その奥に数人の部下を構えた感じで、あの秘書さんが奥でラップトップを叩いているのが見える。
そのすぐ背後に社長室のプレートが張ってあって、あの奥に南くんがいるんだなって気が付く。

受付で私が名のっている間に、秘書さんは私に気が付いて作業をやめ、笑顔で私の方へ近づいてきてくれる。
とってもキレイな人。 セミロングの黒髪にゆるくパーマをかけて、黒のスッキリとしたデザインのジャケットを着こなし、インナーにはゴールドカラーのサマーセーターを合わせている。
ゴージャスで知性あふれるこれぞ仕事のできる女性。 完璧。

ミーティングブースに私を通してくれながら
「いつでも良かったのに。わざわざ申し訳ありません。」

「いえ!そんな!近くに寄ったのでそのついでです。ありがとうございました!おかげで濡れずに済んだので助かりました!」
黒の女子力高いひらひらのついた高級そうな折りたたみ傘を差し出す。
「あと、これうちの事務所の近くのチョコレートなんですけど、良かったら。すごく美味しいんです。」
紙袋を差し出す。

「うわ。ありがとうございます。わたし、チョコ大好きなの。」
秘書さんは、ふわっとした笑顔で受け取る。
あのレストランで会った時は、キリッと仕事のできる鉄のような女性のイメージで近寄りがたかったけれど、意外と話しやすそうな方なのかもしれない。
おそらく、ボスの前では緊張感を持って仕事をしているのかな?
そんな風に感じるくらい、彼女はとっつきやすくソフトな雰囲気で、ついつい見惚れてしまう。

「社長さんは、今いらっしゃるんですか?」
私は、社長室の方を見て率直にきいてしまう。

彼女は、少し目を丸くして、クスッと笑う。
「今日は出張です。午後からヘリで静岡へ向かわれましたよ。」

「ヘリコプター!???」
私はすっとんきょうな声を出してのけぞる。静岡なんぞ普通列車でも東京から行けなくないような所へ。

秘書さんは、私の反応にまたさらにクスクスと笑い出し
「うちの社長に何か?」

「え、あのいや、あの、この間レストランでお会いした時あんまり時間が無かったので、いろいろ話聞きたかったなと。その同級生として。」
私って嘘をつくのが下手。 タジタジになりながら、頭をかく。
「そっか、、、残念。」 会いたかったなあ。

「…………………。」
秘書さんは黙って、私を見つめている。

「お忙しいところありがとうございました!」
私は、礼をしてその場を立ち去ろうとする。

「ちょっと待って。 私ももう今日は上がるので、下まで一緒に行きましょう。」


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