冷徹副社長と甘やかし同棲生活

 早歩きでリビングを出て、逃げるように部屋に入る。バタンと大きな音をたてて扉を閉め、そのままへたへたと座り込んだ。

 扉にもたれながら、頭のなかで椿さんの言葉を思い出す。


 彼は、私のことを女性としてみていない。部下には手を出さないとか、恩人の娘だからとか言っていたけど、単に私に興味がないのだ。

 薄々気づいていたけれど、事実を目の当たりにすると結構つらい。……どうして辛いのだろう。彼にずっと憧れていたから? 憧れだけで、こんなに心が乱れるものなの?


 もしかして、私、副社長のことが好きになっているのかな。彼のことをまだなにも知らないのに……?


 自分のことなのに、自分の気持ちがよく分からない。心が迷子になっている感じがする。
 特別嫌なことをされたわけでもないのに、気持ちが沈んでしまう。


 見慣れない部屋でひとり、膝を抱えて座りながら、なにかを吐き出すようにため息をついた。



 
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