真実の愛に気づいたとき。
「やめる?」


今まで聞いたことがないような、松村さんのとても細い声。


早くこの場から去らないと、決心がつい揺らいでしまいそうな気がした。


バッグからハンカチを取り出し涙を拭う。呼吸を整え、落ち着いた頃に再び口を開いた。



「私は…松村さんと出会えて変わることができました。あのままだったら私、孤独感に押しつぶされてどうなっていたか、どうしていたかわからないです。そんな中あなたと出会いました」


一匹狼を演じていた自分。理想とは違う自分を演じることに疲弊していたあの頃。


「世の中でひとりぼっちだと思っていた私に希望を与えてくれたのは松村さんでした。おかげで視野が広がり、考え方を変えることができました」


自分が主人公の物語で周りはエキストラなんかじゃない。自分が主人公の物語が、命の数分だけこの世の中に存在しているんだ。


「自分だけが孤独なんじゃない。友達が大勢いる人だって、みんなそれぞれ人間関係に悩みを抱えているかもしれない。そう思うようになりました」


気づけば涙は引いていて、視界が良好になった。


"さようなら"するには今しかない。



「私はもう大丈夫です。価値観の合う友達もできました。だから、無理に支えはいりません」


「…」


「あ、未央とはこれまで通り会ってくださいね、私を気遣わないで。もしその時に会ったりしたら…"友達"として、よろしくお願いします」


関係性が曖昧だった私たち。"付き合わずに支える"というのはどのような立ち位置なのか、明確ではない。


ここではっきりと"友達"と示しておけば、お互い余計な感情を持ってくる必要もないはずだ。


ただ、私はこれから先自ら彼に連絡することはないだろう。そして、逆もまた然り。


ゆっくりと腰を上げ、精一杯の笑顔で私は言った。


「好きでした、大好きでした。ありがとうございました!!」


松村さんに背を向けて走り出す。この景色が見えなくなるまで、必死に走り出す。


同時に新たな人生へと走り出す。



生まれ変わった自分に自信を持とう。松村さんのおかげで今の私は存在するのだ。


ありがとう、松村さん…


好きな人のために身を引く。自分本位の生き方をしていた時の私には考えられないことだ。


でも、今の私なりの"愛情"だ。



愛されたいから愛すのではない。


愛したいから愛すのだ。



見返りを求めない愛。



松村さんと出会い、"真実の愛"に気づいた。







「ありがとう、西田ひかり」




空は茜色。新緑もオレンジ色に染まり、二人で最初に見た景色そのものだった…




『真実の愛に気づいたとき。』-END-



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