エーレの物語

「エーレ」
王が口を開いた。名を呼ばれた青年は顔を赤くしていきり立つ憐れな男から目を離し、その双眸を王に向けた。
青年は王が何を言いたいのかしっかりと理解している。
青年は王に背を向け、罪人の鎖を引き、罪人の顔を観衆の方向へ向けた。
捕らわれの男は目の前の観衆の中に泣き惑う妻子供の姿を見つける。
青年は口を開いた。

「この男の罪状を説明する」

男は目を見開いた。今の代の王になってから三日に一度は行われる「処刑」の中で、その理不尽な断罪の理由は教えられこそすれ、詳しい説明など無かったのだ。観衆も予想外な展開に口を閉じた。

「この男の罪状は先に述べた通り、王への不敬によるものだ。彼は長年王家の料理人としてその腕をふるい、また、努力してきた。」

“努力してきた”という言葉に観衆はどよめいた。このスピネル王国にとって最も重視されるものは才能ではなく、努力とそれに基づく結果である。すなわち“努力してきた”とはこの国では最高の賞賛の言葉である。罪人として極刑を言い渡された男に対して使うものではないのだ。
不敬極まりないと言われても可笑しくないその物言いに観衆は裁定者である王を見つめた。
処刑対象が増えるのでは、と思っているのだ。
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