君が残してくれたもの
足りないひとつの席
 私には、ここ最近、ずっと気になっていることがある。

どう考えても、一つ足りない。

私の斜め後ろの席が一つ足りない。

どうして誰も気づかないの?

ここにあったはずの席がない。


「ねえ、ここ席あったよね?」

「え?なかったと思うけど…大丈夫?なずな?」


首をかしげて顔をしかめる樹里の顔をぼんやり見ながら、記憶をたどる。

どうして…確かにあったと思うのよ。


樹里は料理教室を開くほどの腕前の母親のかわいらしすぎる手作り弁当を、容赦なく箸で突っついて食べる。


「お母さん、毎日頑張るね」

私の言葉にさらに眉間のしわが深くなる。

「料理するのは、私のためじゃないの。自分のため。人様にしょぼい弁当見られたりしたら自分の料理教室の名前に傷がつくから」

そう言って彩りよく並んだおかずを雑に散らかす。


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