君が残してくれたもの
いつかの話
こっちに帰ってきて、もう2週間。


あの時代は、何もかもが新鮮だった。


人の多さ、生い茂る木々。


草花の周りを舞う蝶々や、葉っぱの上に止まるてんとう虫。



みんなが同じ格好をしていた制服。


花火大会。

浴衣...なずな・・・


あまりに楽しすぎたから、つい長く居過ぎてしまった。

もう二度と会えない、仲間たち。

メールも手紙も、届かない。


過去に戻ることができるのは、限られた人だけだ。

だいたいそれでも、タイムスリップできるのは一生のうちに1回。


だから、どうあがいても…

もう、会えないのだ。


この脱力感、喪失感に勝てないで、今日もぼんやり窓の外を眺めていた。


帰ってきて、何度か泣いた。

胸が痛くて、息をするのが辛いぐらい、ずっと心の奥で何かひっかかって取れないみたいに。

苦しくて、寂しくて…


寂しくなればラバーズコンツェルトを口ずさみながら、やり過ごしていた。


この歌もなぜか我が家で子守唄のように歌われていた。

ずいぶん古い歌だというのに。


窓の外に気配を感じ覗き込んだ、その時だった。


「ん?」


僕は思わず息をのむ。


自分の目を疑った。
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