あまりさんののっぴきならない事情
「そういえば、来ないな」
と話しかけると、あまりが、

「ははは、はいっ?」
と振り向く。

 ……今こそ、ショック死しそうだったな、と思いながら、海里は言った。

「珈琲だよ。
 着くまでに来そうにないな、車内販売」

 ちょっと買ってくる、と海里は立ち上がり、あまりの膝を叩いた。

「退け」

 はい、とあまりは本で顔を隠すようにして、膝を斜めにして避ける。

「……お前も珈琲でいいか?」
と訊くと、チラ、と本から目だけを出し、

「私、買ってきましょうか?」
と言う。

「いや、いい。
 少し歩きたいから」

 お前、甘いのでいいか、と問うと、はい、と言う。

「じゃ、行ってくる」

 はい、ともう一度後ろで聞こえた。

 うーん。
 少しは進歩してるかな。

 今、脚に触っても悲鳴上げなかったし。

 ま、もうちょっと放っておいてやるか、と思いながら、自動販売機に行きかけて、手洗いの前で女性とすれ違う。
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