二頭(二人の男)追うもの…バチが当たる

「そんなに心配しなくても、あたしはそんなにモテないから」

『何言ってるんですか!? こまめちゃんは自分のこと知らなすぎます!ホント可愛いんですからね!』

昨日から何度も可愛いと言ってくれる輝一君だが、三十路のあたしには、ちょっと恥ずかしすぎて困る。

「ホラ!まだ仕事残ってるんでしょ?オバサンをからかってないで仕事しなさい」

あたしは輝一君の返事を聞かずに一方的に電話を切った。

あの日以来、輝一君は毎日Lineをくれる。スタンプのみの事が多いが、今、輝一君が何をしてるか、何処に居るか手に取るように分かる。彼も忙しいのに、あたしの事を気にかけてくれてるのは正直嬉しい。

淡々と送っていた日々だが、輝一君のお陰で毎日が楽しくなっていた。

金曜日のお昼、珍しく輝一君から電話が掛かって来た。

『こまめちゃん、ご飯はなに食べたんですか?』

「近くのお店で買って来たサンドイッチとスープだよ。輝一君は?」

『僕のお昼はカップ麺ばかりですね』

「カップ麺だけ?ちゃんと野菜も食べないとダメだよ?」

お昼はカップ麺で、夜はコンビニのおにぎり
そんなんでは栄養が偏って体悪くするのに…

『じゃ、土曜日の夜こまめちゃんの家に行っていいですか?』

「え?」

『僕、今から大阪へ出張なんです。土曜日の夜帰ってくるので、こまめちゃんの栄養満点の手料理食べさせて下さい』

「………」

土曜日の夜って事は
もしかして輝一君
うちに泊まる…?

『でも、量は作り過ぎないで下さいね?その後こまめちゃんを食べないといけないんで!』

た、食べなきゃって…
真っ昼間に会社で
電話とはいえそんな事言われるなんて
恥ずかしくて顔が熱くなる

『あっこまめちゃん、いま想像したでしょ?エッチ!』

「し、して無い!あんまりオバサンをからかわないで!」

『あっ時間だ?行かないと』

「気をつけてね?」

『はい、行って来ます。こまめちゃん愛してます。チュッ』

えっ!?…

電話は既に切れているが、私はスマホを耳に当てたまま、暫く固まっていた。





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