肉食御曹司に迫られて
このビルのオフィス棟は、男の人の年収を表すかのように、11Fから26Fに位置するミドルフロア、さらに27Fから41Fは、日本人なら皆知っているような名前と年収をほこる企業が集うアッパーフロアがある。

「ねえ、奈々…その容姿だけで十分でしょ。どんな人でも振り向かせそうなのに…。」
結花は少し訝しげな表情で言う。

「こんな、可愛げのない女、相手にされないよ。」

(ー 結花みたいに、ふんわりした女の子が男の人は好きなんだよ。それに…。)
心の中の言葉を奥深くに押し込む。

結花は、ホテルのフロントスタッフ。大きな瞳に、やわらかな唇。ふわふわの濃茶色の髪。どこから見ても、守ってあげたい女の子。

(ーあたしは、正反対だな)

少し、息を吐き、奈々は、制服を脱いだ。
細身のジーンズに、黒のニットに、パンプス、最後に薄手の黒のジャケットを羽織った。

今までのコンシェルジュの時とは別人のようで、さながら、モデルの様な姿だ。
目は少し吊り上がったくっきりとした二重。瞳は吸い込まれそうな黒。鼻はすっと高く、どこからどう見ても美人という形容が正しい。

奈々は、
「結花、また報告まってる!がんばってエリートゲットしてきて!」

そういうと、結花と別れ、専用エレベータでビルのエントランスへとおり、ビルから外にでた。

金曜日の都心の街は人で溢れかえっていた。
カップル、グループ。そんな人たちを見ながら、一人駅に向かった。
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