ドメスティック・ラブ
「まあさとみんも内心お前が凹んでるのは気がついてると思うけどなー」
ひとしきりじゃれ合った後で片付けを再開し、洗った食器を背後の食器棚に片付けながらまっちゃんが言う。
「あいつお前ほど鈍くないし。自分が離れるのが一番千晶にとってダメージでかいって気づいてるだろ」
余計な一言に、手が濡れていた私は肘で彼の腰を小突いてやった。「ちょ、危ないだろ」とお皿を手にしたまっちゃんが身を捩る。
「一応言っとくけど、まっちゃんが海外行くとか言い出してもきっと超落ち込むよ?」
さとみんだからショックが大きいという部分はもちろんあるけれど、彼女に限らず大切な人達が簡単には会えない海の向こうに引っ越してしまったらきっと私はがっつり落ち込む。
「馬ー鹿、その場合はお前も一緒に行くんだろ」
まっちゃんは振り向きもせず、「夫婦なんだから」とサラリと続ける。
そもそも教師に海外転勤はない。それは分かりきった事だし私も仕事があるとか色々あるけれどあえてそう言って笑い飛ばさず、当然の様に夫婦なんだから一緒だと即答される事が、一生そばにいるというさっきの宣言の裏付けの様で嬉しかった。
「……うん、そうだね」
まだまだ駆け出しで、ぎこちなさも残るけれど。完全体には程遠いけれど。
私たちは『夫婦』だ。