ドメスティック・ラブ

 両腕を突いて上半身を起こしたまっちゃんから申し訳程度に背中にかかっていた布団が滑り落ちる。その瞬間、全裸の自分と同じベッドに横たわる私、という構図を目の当たりにした彼は珍しく慌てた顔をした。
 左耳の横の髪に寝癖がついてピョコッとはねてしまっている。きっと濡れたまま、乾かさずに寝たせいだ。

「おはよ。……そのー……悪い、千晶。これって……」

 ベッドの上に座り込み、眉根を寄せ口元を片手で抑えて目を逸らすまっちゃんの口調は歯切れが悪い。
 まあね、起きたらこの状況ってビックリするよね。何か色々一気に飛び越えてるしね、当然だよね。昨夜は私もものっすごくビックリしたし。

「今更だけどとりあえず眼のやり場に困るから服着て?」

「あ、ああ……」

 ようやく起き上がれた私はまっちゃんのベッドを降りて、主不在でひんやりしていた隣の自分のベッドに腰掛けた。念のため言っておくと、まっちゃんは全裸だけど私はちゃんとパジャマを着ている。
 その間にまっちゃんは寝室内のチェストにしまってある下着を身に着け、いつものようにクローゼットからカッターシャツとスーツを取り出した。寝癖がついているところが、いかにも寝坊したサラリーマンだ。
 人の着替えをじろじろと眺めるのもなんなので一応目を逸らしていたら、小さくくしゃみの音が聞こえた。
 裸なんかで寝て風邪ひいてないといいけど。目一杯布団を引っ張っても動きを制限された状態では背中の半ばまでが精々で肩までは届かなかった。髪も乾かす余裕なんてなかったから、きっと冷えただろう。逆に私は最初こそ髪から時折落ちる水滴が頬に当たり冷たかったけれど、自分以外の体温と密着していたお陰で充分過ぎる程暖かかった。

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