運命の人はいかがいたしますか?
 断って一歩後ずさると、ドンっと背中に軽い衝撃があった。

「ご、ごめんなさい。」

 私まで人にぶつかるなんて…と後ろを振り返ると、その人は杏の手から荷物を取って春人に渡した。

「これお願いします。杏、靴ずれひどいんだろ?」

 そう言うとお姫様だっこさながらに杏を抱きかかえた。

 キャッと声を上げた杏を軽々と抱き上げたのはエルだった。

「ちょ、ちょっと大丈夫だから。」

「では、少し失礼します。」

 春人を冷たく一瞥すると踵を返して去っていこうとする。
 その背中に美優が言葉を投げる。

「杏さん!直帰の処理しときますんで、そのまま帰っていただいて大丈夫です。」

 杏の代わりにエルが振り返ってにっこり「ありがとうございます」と言ってそのまま行ってしまった。

 残された二人は呆気にとられその場に立ち尽くしていた。
 びっくりした美優はさきほどの震えが止まるほどだった。

「…かっこいいですね。」

 ボソッと言った美優の言葉に気に入らないような声を出す。

「俺、助けた方だよなぁ。なんで、にらまれなきゃいけないんだよ。」

 納得いかない顔をしている春人に吹き出して笑う。

「いいとこ持っていかれちゃいましたね。」

 でも靴ずれしてたなんて気づかなかったなぁ。そこは連れ出すための嘘なのかな。
 そんなことを思って春人と並ぶ。

 私は手伝って欲しい人に手伝ってもらえちゃった。

 不満げな春人とは反対に嬉しそうな美優は杏の彼氏だと疑わないエルに心の中で感謝した。
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