運命の人はいかがいたしますか?
第34話 いつでもこうしていたいんだ
 朝、起きるとすぐ近くにエルがいた。起き上がってエルの髪を撫でる。

 ねぇエル。運命の人がいたとして。

 その人をポンと出されて、運命って思えるかしら。

 ずっと聞きたかった言葉を飲み込むと、目を覚ましたエルと目があった。
 撫でている杏にエルは嬉しそうな顔を向けた。

 本当、馬鹿みたい。エルのこと疑ったりして…そんな反省の気持ちが心に浮かぶ。

「ねぇ。杏さん。今日は運命の人を頑張って探しましょう。」

 エルはいつになく張り切っているようだった。
 少しチクッとする心を見ないようにする。

 やっぱり天使と人間とでは無理だということなのだ。

「じゃ早めに帰るわね。」

 そう小さくつぶやいた杏の言葉にエルは首を振る。

「大丈夫です。昨日、会社にはお休みの電話をしておきました。」

 驚いて撫でていた手を思わず離す。

「なんで勝手に!」

「大丈夫です。弟として電話しました。
 親戚のおじさんが急病でって言ったら信じてもらえましたよ。
 杏さんの日頃の人柄のおかげです。」

 そりゃよっぽどのことがない限りは休んだことはない。

 エルは寝たまま、杏の腰に手を回した。

 そして引き寄せられた杏は見事に倒れこんだ。そんな杏をエルは抱きしめる。

「本当はこうすることの理由なんてなくてもこうしていたんだ。」

「ど、ど、ど、どうしちゃったのよ。エル…。」

 ジタバタともがいてもエルの腕の中からは逃れられない。

「だって僕はいつだってこうしていたいのに。」

 敬語でもなんでもないエルはいつもと違うようで、杏はどうしていいのか分からなかった。
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