君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
第六話 君と大輪の花の下

・唯一の弱点



営業部の稀代のエース。それが敏生に冠せられている言葉。
敏生はその賛辞に恥じることがないようストイックともいえるほど、日々の業務をこなしている。それはもう、他の追随を許さないほどに。


巷で流行っている飲食店や取引先のお偉いさんの趣味を調べ上げ、接待に次ぐ接待。そんな小手先の戦法は使わずとも、敏生は契約を取って来ることができた。真っ向勝負の正攻法。彼が扱うのは、確固たる信念のもと彼自身が納得できるものだけ。その適切すぎる判断には、上司といえども従わざるを得ない場面も多かった。現に、敏生が難色を示した案件はうまくいかず、彼が手を入れた案件はことごとくうまくいった。
だからこそ、敏生には信頼という二文字が後押ししてくれた。今では彼を指名しての仕事も舞い込むようになった。〝芹沢敏生の仕事〟それはまるでトレードマークのように、会社における信頼の証でもあった。


入社してたった数年の間に、こうやって確固たるポジションを当然のように築いたエリートの敏生。

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