君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)



その日の昼下がりのことだった。外回りに出ていた敏生が課長に呼び戻されたらしく、それからバタバタと忙しそうに走り回っている。

緊急事態の様相に、結乃も息を凝らして様子を窺っていると、課長がちょうどオフィスの出入り口ところにいた結乃へ声をかけた。


「君、取り引き先が来てるから、お茶を二つ持ってきて!ミーティングルームじゃないよ、応接室にね!」


――取り引き先が営業部へ来るの?普通は逆じゃない?


と、結乃は不審に思ったが、それが何を意味することなのか、この部署のことに詳しくない立場では見当もつかない。

いずれにしても敏生と関われる仕事。たかがお茶出しかもしれないが、少しでも敏生の役に立てると思っただけで、結乃のテンションは上がった。


お盆にお茶を二つ載せて、応接室に向かう。この部屋を使うということは、普通の打ち合わせではないということだ。

ノックをして中に入ったら、そこには部長もいて、その空気に潜む緊迫感に、結乃の浮かれた気持ちが一気に縮み上がる。


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