君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)



「あそこ、座ろうか」


そうやって言ってもらえて、結乃は天にも昇る気持ちになる。ただの知り合いではなくて、友達くらいに思ってもらえているのかと思うと、ただそれだけのことが本当に嬉しい。


「芹沢くん、今まで仕事してたの?」


結乃からも、ごく自然に言葉が出てきた。


「うん、君は?買い物?」

「……う、うん。買い物」


と答えながら、結乃は膝の上に置いていたレジ袋を、敏生とは反対側の隙間に置いた。これはまだ、敏生に見られるわけにはいかない。詮索される前に、結乃は話題を元に戻した。


「私は会社帰りに呑気に買い物なんてできるけど、芹沢くんの仕事は大変なんだね」


気遣われて、敏生は少しくすぐったそうに表情を緩める。


「総務の仕事だって大変だと思うけど?」

「芹沢くんの仕事に比べたら、私の仕事なんて雑用ばっかだし」

「どんな部署でも、必要ないものなんてないよ。総務の人たちがしっかり仕事してくれるから、俺たちもしっかり働けるんだ」

「…うん…」


結乃の胸が、またキュンと震えた。こんな敏生の言葉からも、真摯で前向きな考え方が垣間見える。


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