君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)



「君は、こんなところ、昔と全然変わらないな」


人知れず掃除をしてくれていた彼女に、思い切って声をかけてみた。


「…え、私のこと、…知って?」


結乃は、敏生が彼女のことを『覚えていない』と思い込んでいたみたいだ。それも当然。言葉さえ交わせなかった敏生は、一度だってそんなアピールをして見せたことがなかった。


だけど、それ以来結乃とは知り合いになれた。社内で出会えた時には、視線を合わせて心の中で挨拶を交わせるようになった。


「なぁ、ユノ。今年のバレンタインは、チョコをくれるかなぁ……」


敏生は自分の部屋のベッドに寝そべり、天井を見上げながら、そんな言葉をこぼした。

少し親しくなれた今年は、もしかしたら結乃はチョコをくれるかもしれない…。そんな無意識の願望が、不意に口を突いて出てきた。


「ニャー…」


相づちを打つように、そんな声が聞こえた。ユノは敏生の胸の上に乗ってくると、そこを居場所に決めてうずくまった。


「お前はあの子と同じ名前だけど、お前に聞いても分かるわけないか…」


腕を上げてユノを撫ででやると、ユノは気持ち良さそうにゴロゴロと喉を鳴らした。


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