君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)



敏生は居ても立ってもいられなくなって、指を動かしてメールを打った。


『実は、今日はホワイトデーだから、君にバレンタインのお返しを渡すつもりだったんだ。もし早く帰れたら、君の家まで持っていくよ。君の住所を教えておいてくれないだろうか?』


結乃へのお返しは、会社に持って行くわけには行かなかったので、幸いなことに駅のロッカーに入れている。
しかし、少し待ってみても、結乃からの返事は来なかった。

もやもやした気持ちを抱えながら、落ち着かなげにスマホを胸のポケットへ納める。気を取り直して、商談の資料の確認をしていると、胸が震えるようにバイブが鳴った。

開いて見ると、結乃からのメール。


『ホワイトデーのこと、とても嬉しいです。わざわざ私の家まで来ることないので、お返しはまた明日にでもいただけたらと思います。』


こうやって書いてくるだろうことは、半分くらい想定していた。だけど、ここで結乃の遠慮を素直に聞き入れるわけにはいかない。


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