不知火の姫
小鳥遊のおじさんの会社を出て、私と葉月はバイクを停めたパーキングへ歩いていた。会社を出る時おじさんに、もうすぐ帰るから一緒にって言われたけど、葉月は行く所があるって断ったんだ。


一体こんな夜中に何処へ行くんだろう……


そろそろ夏が近い季節だけど、深夜で草木も眠るような時間では、空気が湿っていて。半袖で来てしまった私は少し肌寒さを感じていた。

パーキングに着くと、やっと葉月はこちらを向いて口を開く。


「これ着てろ」


そう言って自分が着ていたシャツを貸してくれた。

ちょっと寒いなって思ってたの、気が付いてくれたんだ。

まだ葉月の温もりが残るシャツ。羽織ろうと思ったけど……


「でも、葉月が寒くなっちゃうから……」

「俺は大丈夫だ。着てろ」


返そうと思ったら、くるっと背を向けバイクに乗ってしまった。

相変わらず分かりにくい優しさ。

でもそれが嬉しくて、私はシャツを羽織るとバイクの後ろに乗り、葉月にぎゅっと抱き着いた。




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