10年愛してくれた君へ【続編】※おまけ更新中
「…落ち着くな」
春兄の低く透き通るような小さな声が耳に届く。ハッキリ聞こえたけれど、その意味を問いたくて首をかしげた。
「ん?」
すると春兄はチラッと私を見て再び顔を前に向ける。
「いつも思うんだ。藍との間に流れる時間って優しくて、凄く落ち着くんだ」
そう言う春兄の顔はとても穏やかだった。私と思っていることが全く同じで何だかおかしくなりクスッと笑ってしまった。
「何か変なこと言ったか?」
キョトンとした顔がまた可愛く、クスリ笑いが止まらない。
「ううん、何も変じゃないよ。私と全く同じこと考えてて、おかしくなっちゃって」
春兄自身がとても穏やかな人だから、一緒にいる私まで優しい気持ちになれて春兄もそう思うのだろう。きっと自覚ないんだろうなぁ。
湯気がもくもく立ち昇る。どんどん上昇しすーっと消えていく様子をずっと眺めながら私は口を開いた。
「1年前の春兄への手紙、どうして桜のデザインにしたか分かる?」
私の誕生日に手紙で思いを伝えてくれた春兄。事故に遭ってしまい、いつ目が覚めるかわからない春兄に私も手紙で気持ちを伝えた。その時のデザインが桜だった。
「…可愛いから?」
あまりにも単純な回答に逆に驚いてしまい目を丸くする。その後ふっと笑って言葉を続けた。
「色味が薄ピンクで優しい雰囲気だったでしょ?直感的に、春みたいに穏やかで優しい春兄にぴったりだと思ったの。春生まれだし、これはもう春兄に書くために買ったようなものだったのかなったあの時は思ったよ」
そう言うと、春兄は驚いたように先ほどの私みたいに目を丸くした。
「俺の名前の由来、言ったことあったっけ?」
そのセリフ、春兄ママにも言われたっけ。やっぱり親子なんだな。
「ううん、由来は知らなかった。でもね、由来を知らない私でもそう思うんだから、春兄はご両親の願っている通りの人に育ったんだね」
「なんだか藍、今物凄く大人っぽく見えたよ」
「いつも子供だもんね」
意地悪っぽく言い返した。春兄は慌てて弁解しようとするが、いつもと立場が逆転したようで面白くなる。
私はずっと悩んでいた。春兄と4つも年が離れているから、春兄に釣り合うような"大人の女性"にならないとダメだって。
でも、最近はそう思うことが少なくなった。色々な意味で春兄の全てを知ったというのもあるけれど、きっと私自身心に余裕ができたのだと思う。
それと、春兄が私に自信をくれるんだ。彼からの愛は大きくて本物で、私だけに与えてくれる。確実なものであるからこそ私は自信を持てる。
「ねぇ、春兄?」
「ん?」
「…いつもありがとう」
また目を丸くし、けれどすぐに細めて微笑んだ。
「こちらこそ」
感謝の言葉を口にするだけでどんどん絆が深く強くなっていく、そんな気がした。