副社長は束縛ダーリン

「甘いだけなのよね……」

「コンセプトは『幼稚園児のお弁当用の冷凍コロッケ』ですよね? 甘みは大切です。私はいいと思いますけど」


手元にある泉さんが書いた資料には、材料と配合などが細かに記されたレシピの上に、私が今口にしたコンセプトが太字で印字されていた。


子供イコール、甘いものが好き。

そう思っている私には試作品のコロッケになんの問題も感じられない。

小さくて幼稚園児のお弁当のサイズにぴったりだし、後は形を星型やハートなどに工夫すれば、すぐに新商品として売り出せるのではないかと思う出来栄えに思える。


私は入社二年目に入ったばかりの二十三歳で、この『製品開発部、冷凍コロッケ課、二班』の八人の中では、一番の新米。

三年先輩の泉さんが『甘いだけ』と言って悩む理由を理解できずに、他の人たちを見回した。


私と泉さん以外は全員男性社員で、資料の隅にシャープペンシルを走らせていた四十代のベテラン、三上さんが、少々肥えた顎の肉を揺らして、実に班長らしい意見を口にする。

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