よいシエスタを(短編集)

しかえしの朝


【しかえしの朝】




 目が覚めると、左手が握られていた。

 昨日ちょっとしたいたずら心で結んだ赤い糸は、すっかり絡まってしまっている。

 糸をほどこうと彼の手を退けると、昨夜まではなかったものが、左手の薬指にあったから驚いた。
 眠るとき――彼の小指に赤い糸を結んだときにはなかった、指輪があった。

 ただし、いびつで黒い指輪だ。

 見ると、枕元に油性マジックが転がっていた。
 右手に糸が巻かれた状態で、わたしを起こさないよう身体を捩り、サイドテーブルに置いてあるペン立てからどうにかマジックを取った。サイドテーブルの上に散乱している数本のペンから、そんなことが予想できる。


 わたしのいたずらのお返しに、こんなことをするなんて。

 ふっと笑って彼の肩に頬を摺り寄せ、退けたばかりの手を握った。





(了)
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