最後の恋
まだ、そんなに経っていないはずなのに、すごく懐かしい香りがした。


でも、いつも綺麗に整頓されていたその部屋は少しだけ雑然としていて…彼がコーヒーを入れながらキッチンから私に向かって話しかける。


「汚くて、びっくりした?」


なんて答えようか迷ったけど、そんな事ないよって言ったところで嘘にしか聞こえない。


「う、ん…少しだけ」

「これでも少しは片付いたほう。杏奈に振られて…なにもする気が起きなかった。…ってこれ言い訳だな。」


苦笑する彼を見て胸が疼いた。


だけど、それと同時にそこまで思われていたことに気付かされキュンと違う疼きが胸を覆う。


この数日間、彼はどんな思いでこの部屋で過ごしてきたんだろう。


私がもっと心が強くて、彼を信じられていればこんな風に無意味に傷つけ合うこともなかったはずなのに。
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