溺愛御曹司は仮りそめ婚約者


「俺ね、桐島と高校と大学が一緒なんだよ。部活が一緒でさ、二個下だけどウマが合うからその頃からよくつるんでた。だから、あいつの恋愛遍歴もよく知ってる。桐島、初めて付き合った彼女に『もっと完璧な人だと思ってた』って、振られたんだよね。そのあとも何回かそういうことが続いて、そのうちに恋人を作っても一線を引いた付き合いばかり。だんだん笑わなくなって、感情を表に出すことも少なくなった。会社に入ってからは、余計だな。多分、そうすることで自分を守ってたんだろうな」

唐突に語られた意外な主任の過去。その姿は、私も知っている。無表情で、なにを考えているかわからない、完璧な桐島主任。

結婚式のときの、森田さんに感じた違和感の正体ははこれだった。

森田さんが好きだと言っていたのは、私が不気味だと思っていたその仮面をかぶった主任の姿だったから。

「だけど、長いこと片思いしてた浅田さんと付き合うようになって、いいほうに変わったから安心してたんだよ。浅田さんは、本当のあいつを受け止めてくれたんだなって。あんな浮かれてるあいつ、初めて見た。桐島、結構面倒くさいだろ?」

「え、いや……面倒くさいと思ったことはないですよ」

たしかに、会社で見る姿とのあまりの違いに驚きはした。でも、面倒だと思ったことは一度もない。

むしろ、私が好きになってのは完璧な主任ではなくて、悪魔のように寝起きの悪い、甘えたがりの主任だ。

< 168 / 208 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop