溺愛御曹司は仮りそめ婚約者


なのに、じいちゃんには可哀想な子を見るような目で見られ、東吾には不満そうな顔をされた。まあ、今回は譲りませんでしたがね。

じいちゃんの子守唄は聞く価値あるからと東吾を説得して、三人で川の字で眠りについた。

それから、朝一で顔合わせのときに書いた婚姻届をしっかり戸籍謄本を準備していた東吾と近くの役所に提出して、レストランのオープン初日を見届けてから帰宅した。

レストランは、大盛況だった。大きなトラブルもなく初日が終わり、夕飯を食べている頃は東吾の機嫌も直ったのかと思うような雰囲気になっていた。

だから安心していたのだが、甘かった。

空気が一変したのは、寝室のドアを閉めたとき。原因は、私の不用意な一言。

そして現在、私が思っている以上にいろいろな不満が溜まっていたらしい東吾に正座させられているわけだ。

「だって、久しぶりにじいちゃんの子守唄聴きたくなっちゃったんだもん。ああいうのも、もうできないと思うし。東吾だって、爆笑してたじゃない」

「まあ、たしかにあれは聞く価値があった。でも、なにも昨日じゃなくてよかったよね? やっと思いが通じ合ったところだったのにさ」

それがよほど不満だったのだろう。唇を尖らせた東吾がじとっとした目で私を見る。

昼間から東吾は傍目にはわかりにくいが、とてもご機嫌ななめだった。

それに気づいた半澤主任に、「新婚早々、浅田さん、なにしたの?」と、呆れた目で見られてしまった。

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