溺愛執事に花嫁教育をされてしまいそうです
大人の恋をしてみませんか?
その日、ありすは瀬名と二度目のデートをしていた。

「……うわ。変な顔」
水族館の巨大な水槽を覗き込むと、
こちらに向かって泳いできた
ユーモラスな顔立ちをした魚を見て、
ありすは目を丸くする。

「……変な顔って……こんな顔か?」
すると瀬名は水槽を覗き込んでいたありすの頬をつつき、振り向いたありすに向かって、
わざと変な顔をして、笑わせる。

先日の橘との一件があってから
少し落ち込んでいたありすだったが、
今日は瀬名の気遣いで笑顔が多くなっていた。

「俊輔さんって、大人だか子供だか、
たまに分からなくなりますね」
ありすがあきれた声で言うと、

「それが大人の男の作戦だからな。
すっかりありすちゃんも騙されているんじゃないか」
などと言って瀬名は笑う。

(大人の作戦っていうより
単に子どもっぽい気がするんだけど……気のせいかな)
でも、こんな風に単純に楽しめるデートは、
ありすにとっては格式ばったデートらしくなくて楽しい。

「まあ……たまにはこんなデートも楽しいか。
なんか学生のころを思い出すな」
ぐぅっと伸びをして、普段のスーツ姿よりは
少しラフな格好をした瀬名は、普段より気さくに見えて、
まるで近所のお兄さんみたいだ。

だから、ありすは少々強引で自分勝手に動き回る
瀬名のことを今日は余裕をもって観察できている。

(こういう人が旦那さんだったら、楽しいのかな?)
でも少々我儘すぎて振り回されそうだ。
それに普段の生活で考えると、ありすはもっと
穏やかな生活がしたいかもしれない……。

橘に言われた言葉をまた一つ無意識で思い出す。
自分がどういう生活をしたいのか、
結婚は一生の選択になりうるから、慎重に
いろんな角度からいろんなものを検討して選びなさいと。

(って考えると、もうちょっと穏やかに、
過ごせた方がいいのかな……)
などとふと思った時につい思い出してしまったのは、
橘の柔らかい笑みと、良く通るけれど、
けして騒がしくない優しい声と。
そして淹れてくれるお茶の馥郁とした香りだ。

(ってなんで橘さん?)
慌てて頭から思いついたあれこれを消そうした瞬間。

「……さて、もう少し門限までには時間がありそうだな」
この間携帯のアラームが鳴った時間を
覚えているらしい瀬名は、ありすに小さく笑みを向ける。

「この近くに、綺麗に夜景が見れる場所があるんだが
……少し付き合うか?」

その言葉に、ありすは笑顔でうなづいたのだった。


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