王子様はパートタイム使い魔


「こら」

 またしてもリディに頭を押さえられたが、ラルフは諦めたように手を引いてリディから距離を取った。

「じゃあ、君も元気だったようだし、これで失礼するよ。いつもありがとう」

 そう言ってようやく店を出ていった。その姿が見えなくなって、リディはホッと息をつく。
 ツヴァイはしっぽをぶんぶん振りながら吐き捨てるようにつぶやいた。

「あいつ、気に入らない」
「私も苦手なのよね」

 次の配達用の薬を袋に詰めながら、リディがポツリと本音を漏らす。
 ラルフも最初はリディが物珍しくて、ひやかしで店にやってきた町民のひとりだった。ところが翌日から毎日通信符を買いにやってくるようになった。
 ありがたいのだが、一度来ると他愛のない世間話をしながら長時間居座るのだ。町長の息子だし、客でもあるので、その間放置するわけにもいかず、リディは相手をしなければならなくなる。
 何日かそんな状態が続いて、町長の息子と魔女は恋仲になったんじゃないかと妙な噂が流れるようになった。『玉の輿じゃないか』と先代猫のレオンはおもしろがったが、リディにはまったくその気はない。
 そのうち、店にラルフがいると、そこに来あわせた客が変な気を遣って帰ってしまうようになった。
 これでは商売にならないと判断し、町の一番奥から毎日通ってもらうのは申し訳ないからという理由で、毎日配達することにしたのだ。
 もちろんラルフは通うことは苦ではないと主張したが、そこはリディが強く押し通してなんとか納得してもらった。
 話を聞いてツヴァイは毛を逆立ててわめいた。

「やっぱりあいつ気に入らない! オレの妻にちょっかい出すとは!」
「ちょっと、誰があなたの妻なのよ!」

 すかさずリディのツッコミが入ったが、ツヴァイの耳には届いていない。テーブルに飛び乗って視線を近づけ、リディに尋ねる。

「さっき手を握られていたが、他に変なことされてないか?」
「長話するくらいで、だれかさんみたいに有無も言わさずキスしたりはしないわよ」

 リディの冷ややかな目に一瞬絶句したあと、ツヴァイはきまりが悪そうに言い訳をする。

「あれは解呪の魔力を多めにもらおうと……」
「じゃあ、昨日はなんで? 呪いには効果がないって知ってたでしょ?」
「なんでって……」

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